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第9章

システムをつなぐ(連携)

業務は一つのシステムでは完結しません。メール、表計算、会計システムなどの間で情報を受け渡しています。この章では、システムの間の受け渡しを業務担当者の視点で設計し、AIをその途中に置くときの注意点を学びます。

この章で分かること
  • 受け渡しの4つの方法(人・ファイル・API・画面操作の自動化)
  • 連携で決める7つの項目
  • コード・意味・形・時点の「ずれ」の防ぎ方
  • AIを連携の途中に置くときの注意
  • 連携一覧のまとめ方
読む目安:約25分確認クイズ:6問

9-1業務は複数のシステムをまたぐ

請求書処理を例にすると、メールで請求書を受け取り、内容を表計算ファイルに転記し、会計システムに入力し、支払いのために銀行のシステムにデータを送る、という具合に、いくつものシステムをまたいでいます。第2章の業務分解表で「転記」として見つかる箇所の多くは、システムとシステムの間で人が情報を運んでいる場所です。

システムの間で情報を受け渡すことを連携と呼びます。人が運んでいる箇所は、手間がかかるうえに、写し間違い・漏れ・遅れが起きやすい場所です。AIを組み込むときも、AIの前後には必ず別のシステムがあり、そこでの受け渡しを設計しなければAIの結果は業務に生かされません。

メール→人が転記→表計算→人が入力→会計システム→人が書き出し→銀行システム
図9-1 請求書処理で人が情報を運んでいる箇所(橙)

9-2受け渡しの方法は4種類

システムの間で情報を受け渡す方法には、大きく4つあります。どれを使えるかは、相手のシステムが何に対応しているかで決まります。

方法仕組み向いている場面注意点
人が運ぶ画面を見て、別の画面に入力する件数が少ない、一時的写し間違い、漏れ、担当者の不在で止まる
ファイル連携一方がファイル(CSVなど)を書き出し、もう一方が取り込む1日1回など、まとめて受け渡せばよい場合書き出しと取り込みの時差。ファイルの形式がずれると取り込めない
API連携システム同士が決められた窓口を通じて直接やり取りする件数が多い、すぐに反映したい相手がAPIを用意している必要がある。障害時の扱いを決める
画面操作の自動化人の画面操作をソフトウェアがまねて行うAPIがなく、ファイル連携もできない古いシステム画面のデザインが変わると止まる。最後の手段として使う
表9-1 システム間の受け渡しの4つの方法
技術的な補足:APIとCSV

APIは、システム同士がデータをやり取りするための決められた窓口です。お店の注文カウンターのように、「この形式で頼めば、この形式で返す」という約束事が決まっていて、人が画面を操作しなくてもデータを受け渡せます。CSVは、表のデータをカンマで区切って並べた、最も一般的なファイルの形式です。画面操作の自動化は「RPA」と呼ばれることもあります。

9-3連携で決める7つの項目

方法を選ぶ前に、何をどう受け渡すかを決めます。次の7つを業務担当者が整理できれば、システム部門への相談がぐっと具体的になります。

項目決めること請求書処理の例
1. 何を受け渡すデータと項目取引先コード、請求金額、支払期日、明細(項目定義表のとおり)
2. どこからデータの出どころ(正本はどちらか)AIの読み取り結果(確認済みのもの)
3. どこへデータの行き先会計システムの「仕訳の下書き」
4. いつ受け渡しのタイミング担当者が確認を終えたとき、その都度
5. どんな形で形式、項目の並び、文字や日付の書き方会計システムの取込形式に合わせる。日付は年-月-日
6. 失敗したら受け渡しに失敗したときの扱い担当者に通知し、失敗した件を一覧で再送できるようにする
7. 誰の権限でどのアカウントの権限で書き込むか連携専用のアカウント。下書きの登録だけができ、確定はできない
表9-2 連携で決める7つの項目

6と7は特に忘れられがちです。連携は、相手のシステムの停止、通信の不具合、形式のずれなどで必ずいつか失敗します。失敗に気づける仕組みと、やり直す手順がなければ、データが届いていないことに月末まで誰も気づかない、という事態が起きます。

9-4受け渡しの「ずれ」を防ぐ

連携で起きる問題の多くは、システムごとにデータの意味や形が少しずつ違うことから生まれます。

ずれ起きること防ぎ方
コードのずれ同じ取引先が、システムごとに違う番号で管理されている対応表を作る。どちらの番号を正本とするか決める
意味のずれ一方の「金額」は税抜、もう一方は税込項目定義表の「意味」を両方のシステムで照らし合わせる
形のずれ日付が「2026/10/05」と「20261005」受け渡しの形式を決め、変換をどちらで行うか決める
時点のずれマスタの更新が、もう一方に翌日まで反映されないどのくらいの遅れなら業務に影響がないかを決める
表9-3 システム間で起きる「ずれ」

意味のずれは、技術者だけでは見つけにくい問題です。「金額」という項目名が同じでも、業務上の意味が違うことは、業務を知る人にしか分かりません。第6章の項目定義表を、受け渡しの両側のシステムについて書いて並べると、ずれが見つかります。

9-5AIを連携の中に置くときの注意

AIは、メールの添付ファイルを読み取って必要な項目を取り出すといった、これまで人がしていた「つなぎ」の作業を担えます。ただし、AIを連携の途中に置くときは次の3点に注意します。

  • AIの出力をそのまま次のシステムに流さない:AIの出力は誤ることがあります。次のシステムに渡す前に、形式の確認(入口の確認、第4章)と、必要に応じた人の確認を挟みます
  • AIの出力の形を受け取り側に合わせる:受け取るシステムの形式(選択肢、桁数、日付の形)に合わせて出力させます。形が合わないと、そこで人の手直しが発生します
  • AIを使わずに済む受け渡しには使わない:システム同士がAPIやファイルで直接やり取りできるなら、AIを挟む必要はありません。AIは、形の決まっていない情報(メール・PDF・画像)を形の決まったデータに変える場所で使います
よくある失敗

会計システムから書き出したCSVをAIに渡し、AIに集計させて別のシステムに入力させる。形の決まったデータ同士の受け渡しにAIを挟むと、結果がぶれる余地を自分から作ることになります。決まった集計は従来のシステムに任せ(第3章 3-1)、AIは読み取りや分類など、柔軟さが要る工程に絞ります。

9-6連携の全体を一枚に描く

連携が増えてくると、どのシステムからどのシステムへ何が流れているのか、誰も全体を把握していない状態になりがちです。業務担当者の視点で、次のような一覧を作っておくと、障害の調査や変更の影響を確かめるときに役立ちます。

テンプレート:連携一覧
番号
連携ごとの番号(例:連携-03)
どこから → どこへ
システム名(AIを含む)
何を
データの種類と主な項目
方法・タイミング
人/ファイル/API/画面操作の自動化、その都度/毎日9時 など
失敗したら
誰に通知され、誰がどうやり直すか
業務側の持ち主
受け渡されるデータの正しさに責任を持つ役割
技術側の窓口
仕組みの不具合を直す担当

この一覧があれば、たとえば会計システムを入れ替えるときに、影響を受ける連携をすぐに洗い出せます。また、システム部門と話すときの共通の地図にもなります。

この章のまとめ

  • 業務分解表の「転記」は、システムの間で人が情報を運んでいる場所。連携の候補になる
  • 受け渡しの方法は、人・ファイル連携・API連携・画面操作の自動化の4種類
  • 連携では、何を・どこから・どこへ・いつ・どんな形で・失敗したら・誰の権限での7項目を決める
  • コード・意味・形・時点の「ずれ」を、項目定義表を並べて見つける。意味のずれは業務側にしか見つけられない
  • AIは形の決まっていない情報を形の決まったデータに変える場所で使い、出力をそのまま次へ流さない
  • 連携一覧を作り、業務側の持ち主と技術側の窓口を決めておく
やってみよう
  1. 選んだ業務の業務分解表で、システムの間で人が情報を運んでいる箇所に印を付けてください
  2. そのうち1つについて、表9-2の7項目を埋めてください。分からない項目は、システム部門に聞く質問として書き出します