システムをつなぐ(連携)
業務は一つのシステムでは完結しません。メール、表計算、会計システムなどの間で情報を受け渡しています。この章では、システムの間の受け渡しを業務担当者の視点で設計し、AIをその途中に置くときの注意点を学びます。
- 受け渡しの4つの方法(人・ファイル・API・画面操作の自動化)
- 連携で決める7つの項目
- コード・意味・形・時点の「ずれ」の防ぎ方
- AIを連携の途中に置くときの注意
- 連携一覧のまとめ方
9-1業務は複数のシステムをまたぐ
請求書処理を例にすると、メールで請求書を受け取り、内容を表計算ファイルに転記し、会計システムに入力し、支払いのために銀行のシステムにデータを送る、という具合に、いくつものシステムをまたいでいます。第2章の業務分解表で「転記」として見つかる箇所の多くは、システムとシステムの間で人が情報を運んでいる場所です。
システムの間で情報を受け渡すことを連携と呼びます。人が運んでいる箇所は、手間がかかるうえに、写し間違い・漏れ・遅れが起きやすい場所です。AIを組み込むときも、AIの前後には必ず別のシステムがあり、そこでの受け渡しを設計しなければAIの結果は業務に生かされません。
9-2受け渡しの方法は4種類
システムの間で情報を受け渡す方法には、大きく4つあります。どれを使えるかは、相手のシステムが何に対応しているかで決まります。
| 方法 | 仕組み | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 人が運ぶ | 画面を見て、別の画面に入力する | 件数が少ない、一時的 | 写し間違い、漏れ、担当者の不在で止まる |
| ファイル連携 | 一方がファイル(CSVなど)を書き出し、もう一方が取り込む | 1日1回など、まとめて受け渡せばよい場合 | 書き出しと取り込みの時差。ファイルの形式がずれると取り込めない |
| API連携 | システム同士が決められた窓口を通じて直接やり取りする | 件数が多い、すぐに反映したい | 相手がAPIを用意している必要がある。障害時の扱いを決める |
| 画面操作の自動化 | 人の画面操作をソフトウェアがまねて行う | APIがなく、ファイル連携もできない古いシステム | 画面のデザインが変わると止まる。最後の手段として使う |
APIは、システム同士がデータをやり取りするための決められた窓口です。お店の注文カウンターのように、「この形式で頼めば、この形式で返す」という約束事が決まっていて、人が画面を操作しなくてもデータを受け渡せます。CSVは、表のデータをカンマで区切って並べた、最も一般的なファイルの形式です。画面操作の自動化は「RPA」と呼ばれることもあります。
9-3連携で決める7つの項目
方法を選ぶ前に、何をどう受け渡すかを決めます。次の7つを業務担当者が整理できれば、システム部門への相談がぐっと具体的になります。
| 項目 | 決めること | 請求書処理の例 |
|---|---|---|
| 1. 何を | 受け渡すデータと項目 | 取引先コード、請求金額、支払期日、明細(項目定義表のとおり) |
| 2. どこから | データの出どころ(正本はどちらか) | AIの読み取り結果(確認済みのもの) |
| 3. どこへ | データの行き先 | 会計システムの「仕訳の下書き」 |
| 4. いつ | 受け渡しのタイミング | 担当者が確認を終えたとき、その都度 |
| 5. どんな形で | 形式、項目の並び、文字や日付の書き方 | 会計システムの取込形式に合わせる。日付は年-月-日 |
| 6. 失敗したら | 受け渡しに失敗したときの扱い | 担当者に通知し、失敗した件を一覧で再送できるようにする |
| 7. 誰の権限で | どのアカウントの権限で書き込むか | 連携専用のアカウント。下書きの登録だけができ、確定はできない |
6と7は特に忘れられがちです。連携は、相手のシステムの停止、通信の不具合、形式のずれなどで必ずいつか失敗します。失敗に気づける仕組みと、やり直す手順がなければ、データが届いていないことに月末まで誰も気づかない、という事態が起きます。
9-4受け渡しの「ずれ」を防ぐ
連携で起きる問題の多くは、システムごとにデータの意味や形が少しずつ違うことから生まれます。
| ずれ | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| コードのずれ | 同じ取引先が、システムごとに違う番号で管理されている | 対応表を作る。どちらの番号を正本とするか決める |
| 意味のずれ | 一方の「金額」は税抜、もう一方は税込 | 項目定義表の「意味」を両方のシステムで照らし合わせる |
| 形のずれ | 日付が「2026/10/05」と「20261005」 | 受け渡しの形式を決め、変換をどちらで行うか決める |
| 時点のずれ | マスタの更新が、もう一方に翌日まで反映されない | どのくらいの遅れなら業務に影響がないかを決める |
意味のずれは、技術者だけでは見つけにくい問題です。「金額」という項目名が同じでも、業務上の意味が違うことは、業務を知る人にしか分かりません。第6章の項目定義表を、受け渡しの両側のシステムについて書いて並べると、ずれが見つかります。
9-5AIを連携の中に置くときの注意
AIは、メールの添付ファイルを読み取って必要な項目を取り出すといった、これまで人がしていた「つなぎ」の作業を担えます。ただし、AIを連携の途中に置くときは次の3点に注意します。
- AIの出力をそのまま次のシステムに流さない:AIの出力は誤ることがあります。次のシステムに渡す前に、形式の確認(入口の確認、第4章)と、必要に応じた人の確認を挟みます
- AIの出力の形を受け取り側に合わせる:受け取るシステムの形式(選択肢、桁数、日付の形)に合わせて出力させます。形が合わないと、そこで人の手直しが発生します
- AIを使わずに済む受け渡しには使わない:システム同士がAPIやファイルで直接やり取りできるなら、AIを挟む必要はありません。AIは、形の決まっていない情報(メール・PDF・画像)を形の決まったデータに変える場所で使います
会計システムから書き出したCSVをAIに渡し、AIに集計させて別のシステムに入力させる。形の決まったデータ同士の受け渡しにAIを挟むと、結果がぶれる余地を自分から作ることになります。決まった集計は従来のシステムに任せ(第3章 3-1)、AIは読み取りや分類など、柔軟さが要る工程に絞ります。
9-6連携の全体を一枚に描く
連携が増えてくると、どのシステムからどのシステムへ何が流れているのか、誰も全体を把握していない状態になりがちです。業務担当者の視点で、次のような一覧を作っておくと、障害の調査や変更の影響を確かめるときに役立ちます。
- 番号
- 連携ごとの番号(例:連携-03)
- どこから → どこへ
- システム名(AIを含む)
- 何を
- データの種類と主な項目
- 方法・タイミング
- 人/ファイル/API/画面操作の自動化、その都度/毎日9時 など
- 失敗したら
- 誰に通知され、誰がどうやり直すか
- 業務側の持ち主
- 受け渡されるデータの正しさに責任を持つ役割
- 技術側の窓口
- 仕組みの不具合を直す担当
この一覧があれば、たとえば会計システムを入れ替えるときに、影響を受ける連携をすぐに洗い出せます。また、システム部門と話すときの共通の地図にもなります。
この章のまとめ
- 業務分解表の「転記」は、システムの間で人が情報を運んでいる場所。連携の候補になる
- 受け渡しの方法は、人・ファイル連携・API連携・画面操作の自動化の4種類
- 連携では、何を・どこから・どこへ・いつ・どんな形で・失敗したら・誰の権限での7項目を決める
- コード・意味・形・時点の「ずれ」を、項目定義表を並べて見つける。意味のずれは業務側にしか見つけられない
- AIは形の決まっていない情報を形の決まったデータに変える場所で使い、出力をそのまま次へ流さない
- 連携一覧を作り、業務側の持ち主と技術側の窓口を決めておく
- 選んだ業務の業務分解表で、システムの間で人が情報を運んでいる箇所に印を付けてください
- そのうち1つについて、表9-2の7項目を埋めてください。分からない項目は、システム部門に聞く質問として書き出します