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第8章

AIの組み込み方の3つの型

「AIを使う」といっても、業務への組み込み方には大きく3つの型があります。どの型を選ぶかで、必要なデータ、確認の仕方、失敗したときの影響が変わります。この章では、3つの型の違いと選び方、組み合わせ方を学びます。

この章で分かること
  • 型A・B・Cそれぞれの仕組みと向いている業務
  • 型を選ぶための4つの問い
  • 1つの業務で型を組み合わせる考え方
  • AIへの指示(プロンプト)を設計書として扱う方法
  • 型ごとに起きやすい失敗
読む目安:約30分確認クイズ:6問

8-1組み込み方によって、設計が変わる

「AIを使う」といっても、業務への組み込み方には大きく3つの型があります。型によって、必要な材料、確認の仕方、誤ったときの影響、作る側の手間が変わります。業務担当者が型を知っておくと、自分の業務に合った組み込み方を選べるだけでなく、システム部門やベンダーとの会話もかみ合うようになります。

型A

決まった手順の一部をAIが担う

受付→分類→回答

手順は人やシステムが決め、AIは「読む」「分ける」「下書きする」などの一工程だけを受け持つ。

向いている
手順が固まっていて、件数が多い業務
注意
AIの工程の出来を、件数で測る
型B

社内資料を参照して答える

質問→資料を探す→回答案

規程やマニュアルから関係する部分を探し出し、その内容をもとにAIが答える。

向いている
答えが社内資料の中にある問い合わせ
注意
資料が古い・矛盾していると、誤答もそのまま出る
型C

目的を渡し、AIが手順を考えて動く

調べる→判断→操作↺

AIが自分で次の作業を選び、システムを操作しながら目的に向かって進める。

向いている
手順が毎回違う、調べ物や下準備
注意
動きを予測しにくい。権限と承認を最も厳しく

以下、それぞれの型を詳しく見ていきます。

8-2型A:決まった手順の一部をAIが担う

型Aは、業務分解表の工程のうち、特定の工程だけをAIに任せる組み込み方です。前後の工程は人や従来のシステムが担い、流れ全体は決まっています。

たとえば請求書処理では、「請求書の画像から項目を読み取る」工程だけをAIが担い、取引先マスタとの照合はシステムが、支払いの承認は人が行います。AIの入力と出力の形が決まっているので、正確さを測りやすく、誤りの影響も工程の中に閉じ込めやすいのが特徴です。

AIが担う工程の例入力出力
読み取り請求書・領収書の画像項目定義表に沿った項目と値
分類問い合わせのメール決められた種類のどれか1つ(と、その理由)
要約会議の文字起こし決定事項・担当・期限の一覧
見比べ請求書と発注データ一致・不一致と、不一致の項目
下書き問い合わせ内容と回答の方針回答文の案
表8-1 型AでAIが担う工程の例

型Aを設計するときに決めるのは、AIの工程の入力と出力の形です。出力を「決められた選択肢のどれか」「項目定義表の形」のように決めておけば、次の工程のシステムがそのまま受け取れ、正確さも数えられます。第6章の項目定義表が、ここでそのまま使えます。

技術的な補足

型Aのように、決まった手順の流れにAIの処理を部品として組み込む形は、技術者の間で「ワークフロー」と呼ばれることがあります。流れを決めるのは人やシステムで、AIは決められた役割だけを果たします。

8-3型B:社内資料を参照して答える

型Bは、質問や案件に対して、AIが社内の規程・マニュアル・回答集などから関係する部分を探し出し、その内容を根拠に答えを作る組み込み方です。

AIは一般的な知識を持っていますが、自社の規程や商品の細かな条件は知りません。知らないことを聞かれると、一般論やもっともらしい推測で答えてしまいます。型Bでは、答える前に社内資料を探して渡すので、AIの記憶ではなく、会社の資料を根拠に答えさせることができます。

1
質問を受け取る「海外出張の日当はいくらですか」
2
関係する資料を探す旅費規程 第3版の「日当」の条項、運用の手引きの判断例
3
資料をもとに答えを作る回答と、根拠にした条項を並べて出す
4
根拠を確かめて使う担当者が条項と照らして確かめる(任せ方のレベルによる)
図8-1 型Bの流れ

型Bの出来は、ほぼ参照させる資料の質で決まります。資料が古い、矛盾している、探しにくい形で書かれている、といった問題は、そのまま誤答として表に出ます。第7章で知識を整えることが、型Bの設計そのものです。

技術的な補足

型Bの仕組みは、技術的には「RAG(検索拡張生成)」と呼ばれます。質問に関係する資料を検索(Retrieval)し、それを材料に加えて(Augmented)答えを作る(Generation)という意味です。資料を探す精度を上げるため、規程を条項ごとに区切る、見出しを付けるといった整え方が効果的です。

よくある失敗

部署の共有フォルダを丸ごとAIの参照先にする。古い版、下書き、個人のメモ、他部署向けの資料が混ざり、AIがそれらを根拠に答えてしまいます。参照先には、持ち主が決まっていて、正本として承認された資料だけを入れます。

8-4型C:AIが手順を考えて動く

型Cは、AIに目的を渡し、そのために何をするかをAI自身に考えさせて進める組み込み方です。AIは、調べる、判断する、システムを操作する、結果を見て次の行動を選ぶ、という動きを繰り返します。

たとえば「この取引先との過去1年の取引で、支払条件と実際の支払日がずれているものを洗い出して」と依頼すると、AIが自分で会計システムを検索し、契約書を探し、照らし合わせて一覧にする、といった動きをします。手順を前もって書き出せない仕事を任せられるのが強みです。

一方で、型Cには固有の難しさがあります。

  • 動きを前もって確かめにくい:毎回違う手順で動くので、型Aのように「この工程の正確さ」を測るのが難しい
  • 誤りが連鎖する:途中で誤った判断をすると、その後の行動すべてが誤った前提で進む
  • 操作の影響が大きい:システムを操作する権限を持つので、誤れば実際にデータが変わる

そのため型Cを使うときは、最初は「調べて下準備するまで」に範囲を絞り、実行(登録・送信・支払い)は人が行うのが基本です。AIに与える権限も、読むだけ、または下書きを作るまでに限ります(第10章で詳しく扱います)。

技術的な補足

型Cのように自分で判断して行動するAIは「AIエージェント」と呼ばれます。性能の向上とともにできることが急速に広がっている分野ですが、業務に組み込むときの設計の考え方(範囲を絞る、権限を限る、人の承認を挟む、記録を残す)は変わりません。

8-5型を選ぶための4つの問い

問い「はい」なら理由
1. 手順を前もって書き出せるか型A を優先手順が決まっていれば、AIに任せる範囲を一工程に絞れ、正確さも測りやすい
2. 正しい答えが社内資料にあるか型B を検討AIの記憶ではなく、会社の資料を根拠にできる
3. 手順が毎回違い、人が調べながら進めているか型C を検討ただし最初は「下準備まで」に範囲を絞り、実行は人が行う
4. 誤ったときにお金や社外に影響するか型Cの実行は避ける動きを前もって確かめにくく、承認を挟んでも見落としが起きやすい
表8-2 型を選ぶための4つの問い

迷ったら、型Aから考えるのが安全です。型Aで工程を固め、必要な部分にだけ型B・Cを足すほうが、結果的に早く安定します。逆に、「最新のAIエージェントなら何でもできる」と型Cから始めると、どこで何をしたのか追えなくなり、業務に定着しにくくなります。

8-61つの業務で型を組み合わせる

型は業務ごとに1つ選ぶものではなく、工程ごとに選んで組み合わせるものです。お客様窓口の例で見てみます。

工程型任せ方理由
問い合わせの種類分け型Aレベル3出力が決まった選択肢で、正確さを測りやすい
回答案の作成型Bレベル1答えは回答集と商品情報にある。お客様に届くので人が確かめる
返金に関係する購入・修理履歴の下調べ型C下準備のみ調べる先が案件ごとに違う。AIは調べてまとめるだけで、返金の判断と実行は人
対応履歴の記録型Aレベル2やり取りを決まった項目に要約する
表8-3 お客様窓口での型の組み合わせ(架空の例)

第3部の実践編では、この組み合わせを、架空の会社のお客様窓口を題材に最後まで設計します。

8-7AIへの指示を、設計書として扱う

どの型でも、AIには指示(プロンプト)を渡します。指示は、AIにとっての業務マニュアルです。担当者が思い思いに書くのではなく、設計書の一部として、内容を決め、版を管理し、変更時には確かめ直すものとして扱います。

テンプレート:業務で使うAIへの指示の構成
役割
AIがこの工程で果たす役割(例:経費申請を規程に照らして判定する担当)
目的
何のための作業か。結果を誰がどう使うか
参照する材料
使ってよい資料(規程の版、判断例)と、使ってはいけないもの
手順
何をどの順で確かめるか
出力の形
項目、選択肢、根拠の示し方。項目定義表に合わせる
判断できないとき
推測で埋めず、「判断できない」と理由を返す条件
してはいけないこと
例:規程にない基準を作らない、金額を丸めない
版と変更履歴
いつ、誰が、何を、なぜ変えたか

指示を変えると、AIの動きは変わります。良くなることもあれば、別のケースで悪くなることもあります。そのため、指示を変えたら、同じ例題で正確さを測り直してから使うことを決まりにします(第11章)。指示は、プログラムを書かずに仕組みの動きを変えられる強力な手段だからこそ、管理が必要です。

8-8型ごとに起きやすい失敗

型起きやすい失敗予防策
型AAIの出力の形が決まっておらず、次の工程で人が手直ししている出力を選択肢や項目定義表の形に決める
型AAIの工程だけ速くなり、前後の工程が詰まる業務全体のボトルネックを見て工程を選ぶ(第1章)
型B古い資料や下書きを根拠に答える参照先を正本だけに限り、持ち主と更新の流れを決める(第7章)
型B資料にないことを聞かれ、一般論で答える資料に根拠がない場合は「資料に記載がない」と答えるよう指示する
型C途中の誤りが連鎖し、誤った結果が登録される実行は人が行う。AIの権限は読む・下書きまでに限る
型C何をしたか後から追えないAIが行った操作と、その判断の理由をすべて記録する
表8-4 型ごとに起きやすい失敗と予防策

この章のまとめ

  • AIの組み込み方には、型A(手順の一部を担う)、型B(社内資料を参照して答える)、型C(AIが手順を考えて動く)の3つがある
  • 型Aは入出力の形を決めるのが要。正確さを測りやすく、誤りを工程に閉じ込めやすい
  • 型Bの出来は参照させる資料の質で決まる。参照先は正本として承認された資料だけにする
  • 型Cは手順を書き出せない仕事に強いが、動きを確かめにくい。最初は下準備までに絞り、実行は人が行う
  • 迷ったら型Aから。型は業務ごとではなく工程ごとに選んで組み合わせる
  • AIへの指示は設計書の一部として扱い、版を管理し、変えたら例題で確かめ直す
やってみよう
  1. 選んだ業務でAIに任せることにした工程それぞれについて、表8-2の4つの問いに答え、型A・B・Cのどれが合うかを書いてください
  2. そのうち1つの工程について、テンプレートの構成でAIへの指示を書いてみてください。特に「出力の形」と「判断できないとき」を具体的に書きます