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第18章

システム部門・ベンダーへの伝え方

業務担当者がどれだけ丁寧に設計しても、作る側に正しく伝わらなければ、思っていたのと違う仕組みが出来上がります。この章では、設計書を使って、システム部門やベンダーと食い違いなく仕組みを実現していく方法を学びます。

この章で分かること
  • 話が食い違う3つの原因
  • 相談の段階に応じた設計書の渡し方
  • 最初の相談の進め方と、聞くべきこと
  • 業務の言葉と技術の言葉の対応表
  • 提案・見積もり・実演の確かめ方
  • 業務部門・システム部門・ベンダーの役割分担と受け入れの確認
読む目安:約25分確認クイズ:6問

18-1なぜ伝わらないのか

業務担当者がどれだけ丁寧に設計しても、それが作る側に正しく伝わらなければ、思っていたのと違う仕組みが出来上がります。業務部門とシステム部門・ベンダーの間で、話が食い違う原因はおおむね3つです。

原因起きること例
言葉のずれ同じ言葉を違う意味で使っている、違う言葉で同じものを指している業務側の「承認」は上長の判断、システム側の「承認」は画面のボタン操作を指している
前提が書かれていない業務側には当たり前すぎて伝えなかったことが、作る側には分からない「月末は件数が3倍になる」「量販店で買った人の記録はない」
「できます」の食い違い「AIでこれはできますか」「できます」のやり取りで、条件や水準が抜け落ちる「読み取りはできます」が、実は「きれいな画像なら9割程度」の意味だった
表18-1 話が食い違う3つの原因

この章では、第1〜17章で作ってきた設計書を使って、これらの食い違いを防ぎながら、システム部門やベンダーと一緒に仕組みを実現していく方法を学びます。

18-2相談の段階に応じて、渡すものを選ぶ

設計書をすべて一度に渡す必要はありません。相談の段階と相手に応じて、必要なものを選びます。

段階目的渡すもの
1. 最初の相談やりたいことと困りごとを共有し、進め方の見通しを得る要件メモ(第5章)、業務分解表(第2章)
2. 実現方法の検討作り方の案と、おおよその費用・期間を出してもらう上記に加え、任せ分け表(第3章)、データの一覧と項目定義表(第6章)、連携一覧(第9章)、非機能の要件(第12章)
3. 見積もり・提案具体的な作り方・費用・期間・体制を比べる上記に加え、知識の棚卸し(第7章)、型の選択(第8章)、権限と記録(第10章)、評価計画と例題集の一部(第11章)
4. 作る・確かめる作る側と一緒に細部を詰め、出来上がりを確かめるすべて。特に例題集と、AIへの指示の案
表18-2 相談の段階と渡すもの

どの段階でも、要件メモの「やらないこと」と「成功の物差し」は必ず含めます。作る側は、範囲と目標が分からないと、費用も期間も見積もれないからです。

18-3最初の相談の進め方

最初の相談では、次の順番で話すと、短い時間で相手に全体像が伝わります。

  1. 目的:何のための取り組みか(1〜2文)
  2. 困りごとと数字:いま何が起きていて、どのくらい困っているか(第14章のような現状の数字)
  3. 成功の物差し:何がどうなれば成功か
  4. 範囲とやらないこと:今回扱うこと、扱わないこと
  5. 考えている任せ分け:どの工程にAIを使い、どこを人が持つか(業務側の案として)
  6. 聞きたいこと:作る側の意見がほしい点

5の任せ分けは、「案」として示すのがコツです。業務側の考えを示すことで話が具体的になりますが、技術的にもっと良い方法があるかもしれません。作る側の意見を聞く余地を残しておきます。

テンプレート:最初の相談で聞くこと
実現の見通し
この任せ分けは、いまの社内の仕組みで実現できそうか。難しい部分はどこか
既存の仕組み
社内ですでに使えるAIサービスや連携の仕組みはあるか。使ってよいAIサービスと、その設定はどうなっているか
データ
必要なデータはどのシステムにあり、取り出せるか
規程・手続き
情報管理や開発の社内手続きで、守るべきものは何か
進め方
小さく試すなら、どんな形が考えられるか。業務側が準備すべきものは何か

18-4言葉の対応表を持っておく

この教材では、業務担当者に分かりやすい言葉を使ってきました。作る側は、同じものを別の言葉で呼ぶことがあります。対応を知っておくと、話がかみ合いやすくなります。

この教材の言葉作る側がよく使う言葉章
業務分解表、業務フロー図業務フロー、スイムレーン図、As-Is(現状)/To-Be(あるべき姿)第2章
任せ方のレベル自動化レベル、ヒューマン・イン・ザ・ループ第3・4章
人に回すエスカレーション、例外処理第4章
要件メモ要件定義書、RFP(提案依頼書)の一部第5章
項目定義表、データの関係データ項目定義、データモデル、ER図第6章
状態ステータス、状態遷移第6章
正本マスタ、正のデータ、SoR(記録の正となるシステム)第6章
型A:手順の一部をAIが担うワークフロー型、AIの部品化第8章
型B:社内資料を参照して答えるRAG(検索拡張生成)第8章
型C:AIが手順を考えて動くAIエージェント第8章
AIへの指示プロンプト、システムプロンプト第8章
例題集、合格ライン評価データセット、テストデータ、評価基準第11章
止まったとき可用性、障害対応、BCP(事業継続計画)第12章
表18-3 言葉の対応表

相手の言葉が分からないときは、遠慮せずに「それは、業務でいうと何に当たりますか」と聞いてください。分からないまま話を進めることが、最も大きな食い違いの原因になります。

18-5提案と見積もりを確かめる

システム部門やベンダーから提案や見積もりが出てきたら、要件メモと照らし合わせて確かめます。技術的な中身をすべて理解する必要はありません。業務側が確かめるべきことは、業務側の言葉で確かめられます。

テンプレート:提案を確かめるチェックリスト
要件との対応
要件メモの必須の要件それぞれが、提案のどこで満たされるかが示されているか
範囲
「やらないこと」が含まれていないか(費用が膨らむ原因になる)。逆に、必須の要件が抜けていないか
正確さ
AIの正確さを、誰が、どの例題で、どう測るか。合格しなかったらどうするか
判断できないとき
AIが判断できないとき、推測で埋めずに人に回す仕組みになっているか
権限と記録
AIの権限は最小限か。送信・確定・削除に人の承認があるか。ログは残るか
変更
指示や知識を、業務側で変更できるか。変更したときに確かめ直す方法はあるか
AIの版
使うAIの版が変わるとき、誰がどう対応するか
止まったとき
止まったことにどう気づき、業務側にどう知らせるか
運用の費用
作る費用だけでなく、AIの利用料、保守、改善の費用が年間でいくらか
自社に残るもの
指示・知識・例題集・ログを、自社で持ち続けられるか(ベンダーを変えても使えるか)

最後の「自社に残るもの」は見落とされがちですが重要です。AIへの指示、整えた知識、例題集は、業務のノウハウそのものです。ベンダーの仕組みの中にしか存在しない形にすると、ベンダーを変えたときにすべてを作り直すことになります。

18-6「できます」を確かめる

AIを使った仕組みの提案では、実演(デモ)を見せてもらう機会があります。実演はうまくいく案件で行われることが多いので、次のように確かめます。

確かめ方理由
自社の例題で試してもらう実演用の案件ではなく、自社の実際の案件でどう動くかが知りたい
境目の案件を入れる典型的な案件ではなく、迷う案件での動きに実力が出る
判断できないはずの案件を入れる資料にない質問に、推測で答えずに「分からない」と返すかを見る
根拠の示し方を見る担当者が確かめやすい形で根拠が示されるか
同じ案件を何度か試す結果がどのくらいぶれるかを見る
表18-4 実演の確かめ方

例題集(第11章)を早めに作っておくと、この確かめ方がそのまま使えます。複数の提案を比べるときも、同じ例題集で比べれば公平です。なお、例題集を社外に渡すときは、個人情報や取引先名を伏せ、渡してよい情報の範囲(第7章)を守ります。

18-7役割分担を決める

作る段階に入ったら、業務部門・システム部門・ベンダーの役割分担を決めます。曖昧なままだと、「それはそちらでやると思っていた」という作業の抜けが起きます。

作業業務部門システム部門ベンダー
要件・成功の物差しの決定責任を持つ助言助言
知識(規程・回答集)の整備責任を持つ—形式の助言
例題集の作成と正解付け責任を持つ—助言
AIへの指示の内容内容に責任助言技術的な書き方
仕組みの設計と構築確認社内ルールとの整合責任を持つ
権限・ログ・情報管理要件を示す責任を持つ実装
受け入れの確認責任を持つ技術面の確認支援
運用中の改善(知識・指示)責任を持つ支援契約による
表18-5 役割分担の例

表を見ると分かるように、知識、例題集、指示の内容は、業務部門が責任を持つものです。AIを使う仕組みでは、作る作業の多くが、業務の知識を整えて言葉にする作業になります。「システムはシステム部門に任せる」という分担では、AIの仕組みは完成しません。

18-8受け入れの確認

仕組みが出来上がったら、業務部門が受け入れの確認を行います。「動くこと」ではなく、「業務で使えること」を確かめる作業です。

確認内容
例題集での評価合格ラインを満たすか(第11章)。作る側が測った結果だけでなく、業務側も一部を確かめる
業務の通しの確認典型的な案件、例外、人に回す案件などを、受付から記録まで実際の流れで通してみる
権限の確認AIが送信・確定できないこと、人だけが進められる状態が守られていることを、実際に操作して確かめる
止まったときの訓練AIを止めた状態で、代わりの手順で業務を回せるか(第12章)
記録の確認ログと確認の記録が、決めた項目どおりに残っているか
表18-6 受け入れの確認

受け入れの確認を終えたら、いよいよ小さく試す段階に入ります。それが最終章、第19章のテーマです。

この章のまとめ

  • 話が食い違う原因は、言葉のずれ、書かれていない前提、条件の抜けた「できます」の3つ
  • 相談の段階に応じて設計書を選んで渡す。要件メモの「やらないこと」と「成功の物差し」は常に含める
  • 最初の相談は、目的・困りごと・物差し・範囲・任せ分けの案・聞きたいことの順で話す
  • 言葉の対応表を持ち、分からない言葉は業務でいうと何かを聞く
  • 提案は要件メモと照らし、正確さの測り方、判断できないとき、権限、運用費用、自社に残るものを確かめる
  • 実演は自社の例題、境目の案件、判断できないはずの案件で確かめる
  • 知識・例題集・指示の内容は業務部門が責任を持つ。受け入れは「業務で使えるか」を確かめる
やってみよう
  1. あなたが選んだ業務について、18-3の順番で、最初の相談で話す内容を箇条書きで書いてください
  2. 表18-5の役割分担のうち、あなたの職場で曖昧になりそうな作業に印を付けてください