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第19章

小さく試して育てる

AIを使う仕組みは、出来上がった日が完成の日ではありません。この最終章では、仕組みを小さく試し、測り、原因を分類して直し、広げる流れと、それを続けるための運用の体制と年間の予定を学びます。

この章で分かること
  • 試行で限るものと、比べる相手の置き方
  • 試行中に毎週見る数字
  • 誤りの原因の分類と、週1回の振り返りの進め方
  • 広げる方向と、引き返す判断
  • 運用の体制と年間の予定
読む目安:約25分確認クイズ:6問

19-1作って終わりではない

AIを使う仕組みは、出来上がった日が完成の日ではありません。扱う案件の傾向は変わり、規程や商品は改定され、AIそのものも更新されます。何もしなければ、仕組みは少しずつ業務に合わなくなり、やがて使われなくなります(第13章 パターン7・12・14)。

この章では、出来上がった仕組みを小さく試し、測り、直し、広げる流れと、それを続けるための体制を学びます。

STEP 1

試す

業務・人・期間を限って始める

STEP 2

測る

決めた物差しで、導入前や比べる相手と比べる

STEP 3

直す

誤りの原因を分類して、根本を直す

STEP 4

広げる

任せ方を上げる、対象や人数を広げる

STEP 4の後は、また STEP 1 に戻って繰り返します
図19-1 小さく試して育てる流れ

19-2小さく始める

最初から全社で一斉に始めると、問題が起きたときの影響が大きく、原因も特定しにくくなります。試行は、次の3つを限って始めます。

限るもの決め方みなもと家電の例(第17章)
業務の範囲件数がそれなりに多く、誤りの影響が小さいもの(第3章 図3-1で「AIに任せやすい」に入るもの)から回答案は「使い方」「配送・注文」だけ
人協力的で、気づいたことを言葉にできるメンバー。全員の半数程度担当者4名とリーダー
期間効果と問題が見えるだけの長さ。業務の山を避けるか、あえて含めるかを決める6週間、新商品の発売時期を避ける
表19-1 試行で限るもの

可能であれば、試行に参加しないメンバーを比べる相手として残します。同じ時期に、同じ種類の案件を、これまでの手順で処理した結果と比べれば、効果がAIによるものか、時期の違いによるものかを見分けやすくなります。

19-3測る

測るものは、要件メモの成功の物差し(第5章)と、評価計画のAIの物差し(第11章)です。試行の間は、毎週同じ形で数字を並べて見ます。

区分毎週見る数字の例どこから取るか
業務の成果回答までの日数、1件の作業時間、誤った案内の件数業務システムの記録、作業時間の記録
AIの出来回答案をそのまま使った割合/一部修正/書き直し、分類の修正の割合確認の記録(第4・16章の評価のための項目)
人の負担確認にかかった時間、担当者の負担感作業時間の記録、短いアンケート
安全と統制見逃しの件数、人に回した件数と処理までの時間事後の抜き取り、エスカレーションの記録
費用AIの利用料(1件あたり、合計)利用料の明細
表19-2 試行の間に毎週見る数字
ポイント

数字だけでなく、利用者の声も集めます。「回答案は正しいが、敬語が硬すぎてお客様向けに直している」「根拠の表示が小さくて見づらい」といった声は、数字では分からない改善の手がかりです。

19-4直す:原因を分類する

誤りや不便が見つかったら、その場で直すだけでなく、原因がどこにあるかを分類して、根本を直します。原因ごとに直す場所が違うからです。

原因例直し方章
知識・ルール回答集に載っていない質問だった。規程が曖昧だった回答集・判断例を追加する。基準を数字にする第7章
データ型番の表記ゆれで別の商品と判断したコードで管理する、入力を選択式にする第6章
指示出力の形が毎回違う。言葉づかいが場面に合わない指示に形式や例を加える(変えたら例題集で確かめ直す)第8章
工程確認の段階で見落とした。人に回すべきものが回っていない確認の観点、任せ方のレベル、エスカレーションの条件を見直す第3・4章
AIそのもの上のどれを直しても、特定の種類の案件で誤り続けるその種類はAIに任せない、型を変える、AIの変更を検討する第8・12章
表19-3 誤りの原因と直し方

「AIそのもの」を最後に置いているのには理由があります。誤りの原因を最初からAIの性能のせいにすると、知識やデータの問題が見過ごされ、AIを替えても同じ誤りが続きます。原因の多くは、AIの外にあります。

テンプレート:週1回の振り返り(30分)
5分
毎週の数字を見る(表19-2)。先週から大きく変わったものに印を付ける
15分
修正の多かった案件や利用者の声から3〜5件を選び、原因を表19-3で分類する
5分
直すことと担当を決める(知識の追加は知識の持ち主、指示の変更は指示の管理者 など)
5分
先週決めた直しが済んだか、効果があったかを確かめる

19-5広げる、または引き返す

試行の終わりには、結果を見て次の一手を決めます。広げ方にはいくつかの方向があります。

広げ方例判断の材料
任せ方を上げる種類分けをレベル2からレベル3へ任せ分け表の「上げる条件」(第3章)
対象を広げる回答案を「故障・修理」の問い合わせにも使う新しい対象での例題集の評価(第11章)
人を広げる窓口の全員で使う試行メンバーと比べる相手の差、利用者の声
他の業務へ電話の問い合わせへ同じ設計の手順(第14〜17章)を改めて行う
表19-4 広げ方の方向

一度に複数の方向へ広げると、問題が起きたときに原因が分からなくなります。1回に1つの方向に広げ、また試して測ります。

そして、引き返すことも立派な判断です。物差しが改善しない、確認の負担が重すぎる、という結果なら、その工程はAIに任せない、レベルを下げる、という判断をします。引き返す条件を試行の前に決めておけば(第17章の中止の条件)、感情や投じた費用に引きずられずに判断できます。

19-6運用の体制を決める

試行が終わって本格的な運用に入ったら、仕組みを育て続ける体制を決めます。設計を担当した人が異動しても続くよう、個人ではなく役割で決めます。

役割担うことみなもと家電の例
業務の持ち主業務の結果に責任を持つ。任せ方の上げ下げ、広げる・引き返すの判断窓口リーダー
知識の持ち主回答集・規程・判断例を最新に保つ(第7章)回答集は窓口リーダー、説明書は商品企画部 など
指示の管理者AIへの指示の変更案を作り、例題集で確かめ、版を管理する(第8章)窓口の副リーダー
評価の担当毎週の数字、抜き取り、例題集での測り直し(第11章)窓口の担当者が交代で
技術の窓口仕組みの不具合、連携、AIの版の変更への対応(第9・12章)情報システム部の担当者
表19-5 運用の体制

19-7育て続けるための年間の予定

日々の運用に追われると、定期的な点検は後回しになりがちです。年間の予定にあらかじめ組み込んでおきます。

頻度やること担当章
毎週数字の確認と振り返り(30分)、事後の抜き取り業務の持ち主、評価の担当第11・19章
毎月AIの利用料の確認、人に回した案件の傾向の確認業務の持ち主第4・12章
四半期ごと例題集での測り直し、新しい種類の誤りを例題集に追加評価の担当第11章
半年ごと知識の点検(最新か、使われていないものはないか)、権限の見直し知識の持ち主、技術の窓口第7・10章
年1〜2回止まったときの訓練(代わりの手順で実際に処理する)業務の持ち主第12章
年1回設計書一式の見直し、事前の振り返り(次の1年で失敗するとしたら)業務の持ち主と関係者第13章
変更のたび指示・知識の大きな更新・AIの版の変更の前に、例題集で確かめる指示の管理者第8・12章
表19-6 年間の予定

19-8おわりに

この教材で扱ってきたのは、業務を分け、任せ分け、確認を組み込み、要件を言葉にし、データと知識を整え、AIの型を選び、つなぎ、統制し、測り、伝え、育てるという流れでした。

振り返ると、どの章にもプログラムの書き方は出てきません。必要だったのは、業務をよく知っていることと、それを言葉と表にして他の人と共有できることでした。AIの性能は年々上がり、できることは広がっていきます。しかし、何のために、どの仕事を、どこまで任せ、どう確かめるかを決めるのは、これからも業務を知る人の役割です。AIの時代に設計がより大事になるというのは、そういう意味です。

まずは身近な業務を1つ選び、第2章の業務分解表を書き出すところから始めてみてください。資料集のテンプレートが、その手助けになるはずです。理解を確かめたい方は、総まとめテストにも挑戦してみてください。

この章のまとめ

  • 仕組みは作って終わりではない。試す・測る・直す・広げるを繰り返して育てる
  • 試行は業務・人・期間を限り、可能なら比べる相手を残す
  • 業務の成果・AIの出来・人の負担・安全と統制・費用を毎週同じ形で見て、利用者の声も集める
  • 誤りは知識・データ・指示・工程・AIそのものに分類して根本を直す。原因の多くはAIの外にある
  • 広げるのは1回に1つの方向。引き返す条件も先に決めておく
  • 運用の体制は個人ではなく役割で決め、定期的な点検を年間の予定に組み込む
やってみよう
  1. あなたが選んだ業務について、試行で限る「業務の範囲・人・期間」を書いてください
  2. 表19-5の役割を、あなたの職場ではどの役割の人が担うかを書いてください