AIに任せる仕事、人が持つ仕事
第2章で書き出した工程の一つひとつについて、AIに任せるか、人が持つか、従来のシステムで処理するかを決めます。「任せる/任せない」の二択ではなく、任せ方には段階があります。この章では、判断の観点と段階を道具として使えるようにします。
- 人・システム・AIの3者から担い手を選ぶ順番
- 任せ分けを決める4つの観点と、点数の付け方
- 任せ方の4段階(レベル0〜3)と、段階を上げる条件
- AIに任せても責任は人と組織に残るということ
- 任せ分け表のまとめ方
3-1担い手を選ぶ順番
第2章の業務分解表の工程一つひとつについて、担い手を決めます。候補は人・従来のシステム・AIの3者です。AIが話題になっていると、つい「この工程はAIでできるか」から考えがちですが、次の順番で考えると無理のない分担になります。
- そもそも、この工程は必要か:二重チェックや転記のように、なくせる工程はなくす(第2章 2-8)
- 従来のシステムで確実にできるか:計算、転記、決まった条件での振り分けなど、答えが一つに決まるものはシステムに
- AIに任せられるか:読む、分類する、下書きする、見比べるなど、柔軟さが要るものはAIを検討
- 人が持つべきか:最終的な判断、例外、交渉、責任を伴う決定は人に
2番目を飛ばして、従来のシステムで確実にできることまでAIに任せると、結果がぶれる、費用がかさむ、確認の手間が増えるといった問題が起きます。AIは「システムでは難しく、人がやるには量が多い」工程に使うと、最も効果が出ます。
3-2任せ分けを決める4つの観点
AIを検討する工程については、次の4つの観点で評価します。
| 観点 | 問い | AIに向く | AIに向かない |
|---|---|---|---|
| ① 誤りの影響 | 間違えたとき、何が起きるか | 社内で気づいて直せる | お金が動く、社外に届く、法令に関わる |
| ② 基準の明確さ | 判断基準を言葉にできているか | 例付きで文章になっている | 担当者の経験に頼っている |
| ③ 量と繰り返し | どのくらいの件数が、どのくらいの頻度で発生するか | 多い、毎日発生する | 年に数件 |
| ④ 確かめやすさ | 結果が正しいかを、人が短時間で見分けられるか | 原本と見比べればすぐ分かる | 確かめるのに作業し直すのと同じ手間がかかる |
④は見落とされがちですが重要です。AIの結果を確かめるのに、人が最初から作業し直すのと同じ手間がかかるなら、AIに任せても楽になりません。確かめやすい形でAIに出力させられるか(根拠の箇所を示させる、要点だけを並べさせるなど)も、設計で工夫できる部分です(第4章)。
観点を組み合わせて見る
4つのうち、任せ方の大枠を決めるのは①誤りの影響と②基準の明確さの組み合わせです。
そのうえで、③量が少なければAIを入れる効果は小さく、④確かめにくければ確認の負担が重くなる、と補正して考えます。
3-3任せ方の4段階
「任せる」にも段階があります。工程ごとに、どの段階にするかを決めます。
人だけで行う
AIは使わない。影響が大きく、基準が曖昧な判断など。
AIが提案し、人が決める
AIは下書きや候補を出すだけ。採用するかは毎回人が決める。
AIが処理し、人が確認する
AIが処理を進め、人は全件または一部を確かめてから次へ進める。
AIに任せ、例外だけ人へ
通常はAIが完結させ、判断できないものだけ人に回す。人は事後に抜き取りで確かめる。
レベル1とレベル2の違いは、誰が作業を進めるかです。レベル1では人が主役でAIは手伝い、レベル2ではAIが主役で人は関所の役です。レベル2とレベル3の違いは、人の確認が流れの途中にあるか、後にあるかです。レベル3では、人が確かめる前に結果が次の工程に進みます。
3-4段階を上げる条件
最初から高いレベルを目指す必要はありません。多くの工程はレベル1か2から始め、実績を確かめながら段階を上げていくのが安全です。段階を上げるのは、次の3つがそろったときです。
- 正確さの実績がある:一定期間、一定件数で、決めた水準以上の正確さが続いた(測り方は第11章)
- 誤りの影響を抑える手当てがある:金額の上限を設ける、社外に出る前に止まる、取り消せるなど
- 誤りに気づける仕組みがある:抜き取り確認、利用者からの指摘の窓口、定期的な点検
逆に、AIツールやルールが変わったとき、誤りが続いたときは、段階を下げて確かめ直します。段階は固定ではなく、実績に応じて上げ下げするものです。
任せ分け表には、いまのレベルだけでなく「次のレベルに上げる条件」も書いておきます。「3か月間、正確さ98%以上が続いたらレベル3へ」のように書いておくと、いつまでも人が全件確認し続ける状態を防げます。
3-5例で考える:問い合わせ対応の任せ分け
家電の修理受付窓口を例に、工程ごとに任せ分けを決めてみます。
| 工程 | 担い手 | 任せ方 | 理由 | 結果の責任 |
|---|---|---|---|---|
| 問い合わせの種類分け | AI | レベル3 | 件数が多く、分類の基準が明確。誤っても担当者が受け取った時点で気づける | 窓口リーダー |
| お客様情報・購入履歴の照会 | システム | 自動 | お客様番号で確実に引ける。AIを使う理由がない | システム管理者 |
| 回答の下書き | AI | レベル1 | お客様に届くため影響が大きい。担当者が根拠を見て直して送る | 回答した担当者 |
| 保証期間内かの判定 | システム | 自動 | 購入日と保証期間から計算で決まる | システム管理者 |
| 無償修理にするかの判断 | 人 | レベル0 | お金が動き、使い方や故障の状況による判断が要る | 窓口リーダー |
| 対応履歴の記録 | AI | レベル2 | AIがやり取りを要約し、担当者が確かめて登録する | 回答した担当者 |
同じ「問い合わせ対応」の中でも、工程によって担い手も任せ方も違います。また、保証期間の判定のようにAIではなく従来のシステムに任せるべき工程もあります。業務をまるごと「AI化する/しない」で考えず、工程ごとに決めるのがこの章の要点です。
3-6責任は人と組織に残る
どのレベルで任せても、AIが結果の責任を取ることはできません。AIが作った回答でお客様に誤った案内をすれば、責任を負うのは会社であり、その工程の責任者です。
そのため、任せ分け表には工程ごとに結果の責任を負う人(役割)を書きます。表3-2の右端の列がそれです。責任者が決まっていれば、誤りが起きたときに誰が原因を調べ、誰が直すかで迷いません。
レベル3で任せた工程の責任者が「AIを導入したシステム部門」になっている。システム部門は仕組みが動くことには責任を持てますが、問い合わせの分類が業務として正しいかまでは判断できません。業務の結果の責任は、その業務を持つ部門の役割に置きます。
3-7任せ分け表のまとめ方
この章で決めたことは、業務分解表に列を足す形でまとめると、後の章でそのまま使えます。
- 担い手
- 人/システム/AI(組み合わせの場合は主担当を先に)
- 任せ方
- レベル0〜3、またはシステムによる自動処理
- 4観点の評価
- 影響・基準・量・確かめやすさを、それぞれ「高・中・低」などで
- 理由
- なぜその任せ方にしたか(1〜2文)
- 上げる条件
- 次のレベルに進める条件(期間・件数・正確さ)
- 結果の責任
- 誤りが起きたとき、原因を調べて直す役割
この章のまとめ
- 担い手は「不要な工程をなくす → システム → AI → 人」の順で考える
- AIは「システムでは難しく、人がやるには量が多い」工程で最も効果が出る
- 任せ分けは、誤りの影響・基準の明確さ・量と繰り返し・確かめやすさの4観点で評価する
- 任せ方はレベル0〜3の4段階。最初はレベル1か2から始め、実績で上げ下げする
- 工程ごとに、結果の責任を負う業務側の役割を決めておく
- 第2章で書いた業務分解表の各工程について、まず「なくせないか」「従来のシステムでできないか」を書き込んでください
- 残った工程のうち1つを選び、4観点で評価して、任せ方のレベルと、次のレベルに上げる条件を書いてください