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第3章

AIに任せる仕事、人が持つ仕事

第2章で書き出した工程の一つひとつについて、AIに任せるか、人が持つか、従来のシステムで処理するかを決めます。「任せる/任せない」の二択ではなく、任せ方には段階があります。この章では、判断の観点と段階を道具として使えるようにします。

この章で分かること
  • 人・システム・AIの3者から担い手を選ぶ順番
  • 任せ分けを決める4つの観点と、点数の付け方
  • 任せ方の4段階(レベル0〜3)と、段階を上げる条件
  • AIに任せても責任は人と組織に残るということ
  • 任せ分け表のまとめ方
読む目安:約30分確認クイズ:6問

3-1担い手を選ぶ順番

第2章の業務分解表の工程一つひとつについて、担い手を決めます。候補は人・従来のシステム・AIの3者です。AIが話題になっていると、つい「この工程はAIでできるか」から考えがちですが、次の順番で考えると無理のない分担になります。

  1. そもそも、この工程は必要か:二重チェックや転記のように、なくせる工程はなくす(第2章 2-8)
  2. 従来のシステムで確実にできるか:計算、転記、決まった条件での振り分けなど、答えが一つに決まるものはシステムに
  3. AIに任せられるか:読む、分類する、下書きする、見比べるなど、柔軟さが要るものはAIを検討
  4. 人が持つべきか:最終的な判断、例外、交渉、責任を伴う決定は人に

2番目を飛ばして、従来のシステムで確実にできることまでAIに任せると、結果がぶれる、費用がかさむ、確認の手間が増えるといった問題が起きます。AIは「システムでは難しく、人がやるには量が多い」工程に使うと、最も効果が出ます。

3-2任せ分けを決める4つの観点

AIを検討する工程については、次の4つの観点で評価します。

観点問いAIに向くAIに向かない
① 誤りの影響間違えたとき、何が起きるか社内で気づいて直せるお金が動く、社外に届く、法令に関わる
② 基準の明確さ判断基準を言葉にできているか例付きで文章になっている担当者の経験に頼っている
③ 量と繰り返しどのくらいの件数が、どのくらいの頻度で発生するか多い、毎日発生する年に数件
④ 確かめやすさ結果が正しいかを、人が短時間で見分けられるか原本と見比べればすぐ分かる確かめるのに作業し直すのと同じ手間がかかる
表3-1 任せ分けを決める4つの観点

④は見落とされがちですが重要です。AIの結果を確かめるのに、人が最初から作業し直すのと同じ手間がかかるなら、AIに任せても楽になりません。確かめやすい形でAIに出力させられるか(根拠の箇所を示させる、要点だけを並べさせるなど)も、設計で工夫できる部分です(第4章)。

観点を組み合わせて見る

4つのうち、任せ方の大枠を決めるのは①誤りの影響と②基準の明確さの組み合わせです。

図3-1 誤りの影響と、基準の明確さで考える

そのうえで、③量が少なければAIを入れる効果は小さく、④確かめにくければ確認の負担が重くなる、と補正して考えます。

3-3任せ方の4段階

「任せる」にも段階があります。工程ごとに、どの段階にするかを決めます。

レベル0

人だけで行う

AIは使わない。影響が大きく、基準が曖昧な判断など。

レベル1

AIが提案し、人が決める

AIは下書きや候補を出すだけ。採用するかは毎回人が決める。

レベル2

AIが処理し、人が確認する

AIが処理を進め、人は全件または一部を確かめてから次へ進める。

レベル3

AIに任せ、例外だけ人へ

通常はAIが完結させ、判断できないものだけ人に回す。人は事後に抜き取りで確かめる。

図3-2 任せ方の4段階(右に行くほどAIの担う範囲が広い)

レベル1とレベル2の違いは、誰が作業を進めるかです。レベル1では人が主役でAIは手伝い、レベル2ではAIが主役で人は関所の役です。レベル2とレベル3の違いは、人の確認が流れの途中にあるか、後にあるかです。レベル3では、人が確かめる前に結果が次の工程に進みます。

3-4段階を上げる条件

最初から高いレベルを目指す必要はありません。多くの工程はレベル1か2から始め、実績を確かめながら段階を上げていくのが安全です。段階を上げるのは、次の3つがそろったときです。

  • 正確さの実績がある:一定期間、一定件数で、決めた水準以上の正確さが続いた(測り方は第11章)
  • 誤りの影響を抑える手当てがある:金額の上限を設ける、社外に出る前に止まる、取り消せるなど
  • 誤りに気づける仕組みがある:抜き取り確認、利用者からの指摘の窓口、定期的な点検

逆に、AIツールやルールが変わったとき、誤りが続いたときは、段階を下げて確かめ直します。段階は固定ではなく、実績に応じて上げ下げするものです。

ポイント

任せ分け表には、いまのレベルだけでなく「次のレベルに上げる条件」も書いておきます。「3か月間、正確さ98%以上が続いたらレベル3へ」のように書いておくと、いつまでも人が全件確認し続ける状態を防げます。

3-5例で考える:問い合わせ対応の任せ分け

家電の修理受付窓口を例に、工程ごとに任せ分けを決めてみます。

工程担い手任せ方理由結果の責任
問い合わせの種類分けAIレベル3件数が多く、分類の基準が明確。誤っても担当者が受け取った時点で気づける窓口リーダー
お客様情報・購入履歴の照会システム自動お客様番号で確実に引ける。AIを使う理由がないシステム管理者
回答の下書きAIレベル1お客様に届くため影響が大きい。担当者が根拠を見て直して送る回答した担当者
保証期間内かの判定システム自動購入日と保証期間から計算で決まるシステム管理者
無償修理にするかの判断人レベル0お金が動き、使い方や故障の状況による判断が要る窓口リーダー
対応履歴の記録AIレベル2AIがやり取りを要約し、担当者が確かめて登録する回答した担当者
表3-2 問い合わせ対応の任せ分け表(架空の例)

同じ「問い合わせ対応」の中でも、工程によって担い手も任せ方も違います。また、保証期間の判定のようにAIではなく従来のシステムに任せるべき工程もあります。業務をまるごと「AI化する/しない」で考えず、工程ごとに決めるのがこの章の要点です。

3-6責任は人と組織に残る

どのレベルで任せても、AIが結果の責任を取ることはできません。AIが作った回答でお客様に誤った案内をすれば、責任を負うのは会社であり、その工程の責任者です。

そのため、任せ分け表には工程ごとに結果の責任を負う人(役割)を書きます。表3-2の右端の列がそれです。責任者が決まっていれば、誤りが起きたときに誰が原因を調べ、誰が直すかで迷いません。

よくある失敗

レベル3で任せた工程の責任者が「AIを導入したシステム部門」になっている。システム部門は仕組みが動くことには責任を持てますが、問い合わせの分類が業務として正しいかまでは判断できません。業務の結果の責任は、その業務を持つ部門の役割に置きます。

3-7任せ分け表のまとめ方

この章で決めたことは、業務分解表に列を足す形でまとめると、後の章でそのまま使えます。

テンプレート:任せ分け表に足す列
担い手
人/システム/AI(組み合わせの場合は主担当を先に)
任せ方
レベル0〜3、またはシステムによる自動処理
4観点の評価
影響・基準・量・確かめやすさを、それぞれ「高・中・低」などで
理由
なぜその任せ方にしたか(1〜2文)
上げる条件
次のレベルに進める条件(期間・件数・正確さ)
結果の責任
誤りが起きたとき、原因を調べて直す役割

この章のまとめ

  • 担い手は「不要な工程をなくす → システム → AI → 人」の順で考える
  • AIは「システムでは難しく、人がやるには量が多い」工程で最も効果が出る
  • 任せ分けは、誤りの影響・基準の明確さ・量と繰り返し・確かめやすさの4観点で評価する
  • 任せ方はレベル0〜3の4段階。最初はレベル1か2から始め、実績で上げ下げする
  • 工程ごとに、結果の責任を負う業務側の役割を決めておく
やってみよう
  1. 第2章で書いた業務分解表の各工程について、まず「なくせないか」「従来のシステムでできないか」を書き込んでください
  2. 残った工程のうち1つを選び、4観点で評価して、任せ方のレベルと、次のレベルに上げる条件を書いてください