人の確認と例外への対応
AIは間違えます。その前提に立つと、「どこで、誰が、何を、どこまで確かめるか」を業務の流れの中に組み込む必要があります。この章では、確認が形だけにならず、例外がたまらない流れの設計を学びます。
- 確認を置く場所の3つの型(前・途中・後)
- 自動化バイアスと、確認を形だけにしない5つの工夫
- 全件確認と抜き取り確認の使い分け
- AIが判断できないときの受け渡し(エスカレーション)の設計
- 確認の記録に残す項目
4-1流れの中に、人の確認を組み込む
業務の流れの途中に、人の確認や判断をあらかじめ組み込んでおく考え方をヒューマン・イン・ザ・ループと呼びます。「処理の輪(ループ)の中に人がいる」という意味です。第3章のレベル1・2は、まさにこの形です。
大事なのは、確認を「問題がありそうなら見る」ではなく、工程として決めておくことです。誰が、どの時点で、何を、どの件数だけ確かめるかを決め、業務分解表に1つの工程として書きます。書かれていない確認は、忙しい時期に真っ先に省かれます。
4-2確認を置く場所の3つの型
確認は、AIの処理の前・途中・後のどこにでも置けます。それぞれ止められる誤りが違います。
| 型 | 置く場所 | 止められる誤り | 例 |
|---|---|---|---|
| 入口の確認 | AIに渡す前 | 材料の不備による誤り | 請求書の画像が読める解像度か、必須項目がそろっているかを、システムが自動で確かめる |
| 関所の確認 | AIの結果が次の工程に進む前 | AIの判断や出力の誤り | AIが作った回答案を、担当者が根拠と照らして確かめてから送る |
| 事後の確認 | 処理が終わった後 | 傾向としての誤り、ゆっくり進む劣化 | 週に1回、AIの分類結果から20件を抜き出して正しいか確かめる |
どれか一つで十分ということはありません。影響の大きい工程には関所を置き、量が多く影響の小さい工程は事後の抜き取りで見守り、どちらにも入口の確認で材料の不備を減らす、という組み合わせが基本です。
入口の確認は、AIではなく従来のシステムに任せられることが多い部分です。必須項目が空欄なら受け付けない、ファイル形式が違えば差し戻す、といった確認は答えが一つに決まるからです。入口で止めれば、AIが不完全な材料で無理に答えを作ることも防げます。
4-3確認が形だけになる理由
AIの結果が正しい状態が続くと、人は中身をよく見ずに承認するようになりがちです。これを自動化バイアス(機械の結果を過度に信用してしまう傾向)と呼びます。99件正しかった後の100件目は、つい見逃してしまうのです。
確認が形だけになる原因は、担当者の気のゆるみだけではありません。多くの場合、次のような設計の問題があります。
- 何を確かめればよいか決まっていないので、ざっと眺めるだけになる
- 確かめる件数が多すぎて、1件にかけられる時間が足りない
- AIの結果に根拠が示されておらず、正しいかどうかを判断する材料がない
- 誤りを見つけても報告する先がなく、見つける動機が生まれない
4-4確認を形だけにしない5つの工夫
1. 確認の観点を決める
「内容を確認する」ではなく、「金額」「宛先」「適用した規程の条項」「期日」のように、何を見るかを3〜5項目のチェック項目にします。観点が決まっていれば、確認は短時間で済み、人による差も小さくなります。
2. AIに根拠を示させる
AIの出力に、判断の根拠をあわせて出させます。「どの規程のどの部分に基づいたか」「請求書のどの箇所から金額を読み取ったか」が示されていれば、人は根拠と結果を照らし合わせるだけで確かめられます。
3. 迷ったものを分けて出させる
AIに、判断に自信がないもの、条件の境目にあるものを「要確認」として分けて出すよう指示します。人はまず要確認のものを重点的に見ることで、限られた時間を誤りの起きやすい箇所に集中できます。
AIが自分で示す「自信の度合い」は、必ずしも当てになりません。自信があると言いながら誤ることもあります。そのため、「金額が10万円以上」「規程に該当する条項が見つからない」のように、AIの自己申告ではなく、客観的な条件で要確認に分けるほうが確実です。
4. 確認する件数を現実的にする
1日に確認できる件数と時間には限りがあります。全件確認が負担なら、影響の大きいものは全件、それ以外は抜き取りにする、と分けます(4-5)。
5. 誤りを報告でき、それが直る仕組みにする
確認した人が見つけた誤りを記録し、ルールや知識、AIへの指示の改善につなげる流れを作ります。見つけた誤りが直っていくのが見えると、確認は形だけの作業ではなく、仕組みを良くする作業になります。
4-5全件確認と抜き取り確認
確認する件数は、誤りの影響と、AIの正確さの実績で決めます。
| 状況 | 確認の方法 | 例 |
|---|---|---|
| 誤りの影響が大きい | 全件確認(関所) | お客様に送る回答、支払い金額 |
| 影響は中程度、実績が少ない | 全件確認から始め、実績を見て抜き取りへ | 導入直後の仕訳候補 |
| 影響は中程度、実績が十分 | 条件付き全件+残りは抜き取り | 10万円以上は全件、それ未満は1割を抜き取り |
| 影響が小さい | 抜き取り(事後) | 社内問い合わせの分類 |
抜き取り確認では、どのように選ぶかも決めておきます。担当者が見やすいものを選ぶと、誤りの起きやすいものが漏れます。日付や番号で機械的に選ぶ、または「新しい取引先」「金額の大きいもの」を必ず含める、といった選び方を決めます。
経理の分野では、監査人も一部を抜き出して確かめる方法(サンプリング)を使います。抜き取り確認の選び方と結果を記録しておくと、社内の確認が適切に行われていることを監査の場で説明しやすくなります。
4-6AIが判断できないときの受け渡し
AIは、判断に迷うケースでも、もっともらしい答えを出してしまうことがあります。そこで、判断できない場合は「判断できない」と返し、決められた担当者に回すように、指示と流れの両方で設計します。人に回すことをエスカレーションと呼びます。
規程の範囲内と判定できた
経理担当が抜き取りで確認して支払いへ。確認した記録を残す。
判定できない・例外に当たる
経理担当に理由を添えて回す。2営業日以内に判断し、結果を記録する。
エスカレーションは、次の5つを決めておかないと機能しません。
- 条件
- どんなときに人に回すか(該当する規程がない、金額が上限超え、必須の情報が欠けている など)
- 回す先
- 誰に回すか(役割名で。不在時の代わりも)
- 添える情報
- AIが回すときに付ける情報(判断できなかった理由、関係しそうな規程、元の資料)
- 期限
- いつまでに判断するか。過ぎたら誰に知らせるか
- 戻し方
- 人の判断結果をどう記録し、次に同じケースが来たときに生かすか
回す先と期限が決まっていないと、判断待ちの案件がたまり、結局AIを使わないほうが早いという状態になります。また、人が判断した結果を判断例として蓄積すれば(第7章)、次からはAIが判断できるケースが増えていきます。
4-7確認の記録を残す
AIが関わる業務では、確認したことを記録に残しておくことが重要です。あとで誤りが見つかったとき、原因がAIにあるのか、確認の漏れか、ルールの問題かを切り分けられるからです。
| 記録する項目 | 何のために |
|---|---|
| AIの出力と、その根拠 | AIが何を根拠にどう判断したかを後から確かめる |
| 確認した人と日時 | 誰がいつ確かめたかを示す |
| 確認の結果(そのまま承認/修正/差し戻し) | AIの正確さを測る材料にする |
| 修正した場合は、修正の内容と理由 | 誤りの傾向をつかみ、改善につなげる |
| 使ったルールや指示の版 | ルールの変更前後で結果がどう変わったかを追う |
「確認の結果」を集計すれば、AIの正確さの実績になります。第3章で見た「段階を上げる条件」を判断する材料は、この記録から得られます。確認の記録は、責任の証拠であると同時に、仕組みを育てるためのデータです。
この章のまとめ
- 人の確認は「問題がありそうなら見る」ではなく、工程として流れに組み込む
- 確認の置き場所は、入口・関所・事後の3つ。止められる誤りが違うので組み合わせる
- 確認が形だけになるのは設計の問題。観点を決め、根拠を示させ、迷うものを分け、件数を現実的にし、誤りを直る仕組みにする
- 確認の件数は、誤りの影響と実績で決める。抜き取りは選び方も決める
- AIが判断できないときの条件・回す先・添える情報・期限・戻し方を決めておく
- 確認の記録は、責任の証拠であり、AIの正確さを測るデータでもある
- 第3章でAIに任せることにした工程について、確認を入口・関所・事後のどこに置くかを決めてください
- 関所の確認がある工程について、確認の観点を3〜5項目で書いてください
- エスカレーションの5つの決めごとを、1つの工程について埋めてみてください